泳ぎ、漕ぎ、走る――それぞれの動作を超えて、人生そのものに向き合うきっかけを与えてくれるのが、トライアスロンというスポーツです。
選手としての枠を超えて、長年にわたりトライアスロンの魅力を伝え続けてきた白戸太朗さんに、トライアスロンの魅力を伺いました。インタビュー前編では、白戸さんとトライアスロンの出会いから、トライアスロンの普及を目指して設立した「ATHLONIA(アスロニア)」について、また、競技を通じて得た経験や成長について伺います。
※本記事は、当社よりケンフェロール含有製品を提供し、依頼したインタビューを編集して掲載しています。

もともと中学から大学までクロスカントリースキーを続けていましたが、日本でスキーをやるとなると、シーズン以外はずっと陸上トレーニングをすることになります。つまり、10年間スキーをやっていたら、10年間の陸上トレーニングもしているわけです。
スキーが嫌いだったわけではありませんが、陸上トレーニングに少し飽きがきてしまい「モチベーションが欲しい」と思っていたとき、たまたまテレビでトライアスロンを見ました。
私は、子どもの頃に水泳もやっていましたし、陸上トレーニングでランニングもしていたので「できるかもしれない」と思ったんです。そのとき、たまたま隣の部屋にいた自転車部の友人が自転車を貸してくれることになり、そこから自然に始まりました。
始めてみたら、意外と自分に向いていたんです。もともと長距離系の運動が得意だったので、トライアスロンでも徐々に成果が出るようになりました。成果が出るとさらに楽しくて、その循環でのめり込んでいきましたね。
さらに、トライアスロンに取り組むことでスキーの成績も上がってきて、お互いが相乗効果を生んでいる状態でした。そして、次第にトライアスロンの方が面白くなってきて、立場が逆転しました。

一番記憶に残っているのは、海外遠征の経験ですね。僕らの時代は、ナショナルチームもなければ、情報も少なくて、全て自分で手配しなければなりませんでした。出場したい大会があれば、手書きでファックスを書いて申し込む。返事が来ない状態でも、とにかく現地に行ってましたね。
スペインの空港で迎えがいなくて、言葉も通じないなか、スペイン語の本を片手に必死で話しかけて、現地の人に助けてもらったこともあります。逆に、困っていたイタリア人選手を自分の部屋に泊めてあげたこともありました。
言葉も文化も違うなかで、人と助け合いながら進んでいく経験は、選手としてだけでなく、1人の人間として本当に大切な経験だったと思います。
アスロニアは、僕自身のトライアスロン人生のステップの一つです。選手として活動していたとき、同時に「このスポーツをどう広げていくか」を個人的に考え、トライアスロンを教えたり大会を運営したりという活動を始めていました。

そんなときに、人生の先輩から「今やっていることは“点”でしかない。“面”にしないと広がらない」と言われたこともあり、2008年に会社として立ち上げたのがアスロニアです。
当時はトライアスロンに関する情報が少なかったので、まずはリアルに相談できる場として店舗を。勧めたら教えないとならないので「スクール」を始め、さらに練習の成果を発表する「大会」の運営も行いました。トライアスロンの入り口から出口まで、一貫して関われるようにしたのがアスロニアです。
日本のスポーツイベントは、競技会の色合いが強く、どこか「真面目すぎる」と感じていました。対して、海外のスポーツイベントはもっと自由で、楽しくて、参加者もボランティアも一緒にお祭りのように盛り上がる。私は、トライアスロンも競技にとどまらず、「スポーツを楽しむ場」であってほしいと考えています。

その想いを形にして運営しているのが「ホノルルトライアスロン」です。有名なホノルルマラソン(※)のように自由で、仮装をしても、歩いてもOK。制限をできる限りゆるやかにして、誰でも参加しやすい雰囲気を大切にしています。
参加者から「浮き輪を使ってもいいですか?」と言われれば「良いですよ」と答えますし、「biki(現地のシェアサイクル)で出ても大丈夫ですか?」と言われれば「もちろんです」と答える。そんな風に、ルールで縛るのではなく、誰もが自分のペースで挑戦できる大会。それが私の理想とするトライアスロンの姿であり、大会づくりの根底にあります。
※ホノルルマラソンとは?
ハワイ・オアフ島で毎年開催される市民マラソンで、完走制限時間がなく、誰でも自分のペースで楽しめる、世界で最も自由なマラソン大会の一つ。毎年、初心者からベテランまで多くの人が参加する。
トライアスロンは自然のなかで行うスポーツです。だからこそ “ローカルの味”を活かすことが大事だと思っています。どの場所でも同じような大会を開催するのではなく、その土地らしさを大切にした大会を作りたいですね。
トライアスロンの大会運営では、主催者が「誰のためにやるのか」「何のためにやるのか」を明確にすることが必要だと思っています。競技志向ならそれに合った大会に、初心者向けならもっと敷居を下げるなど、目的とターゲットに応じた“味付け”をして、色々な楽しみ方ができる大会を作っていきたいです。

一言で言うと、「やったらできる」「やらなかったらできない」ということです。トライアスロンはとても素直なスポーツで、やった分だけきちんと成果として返ってきますし、逆に、サボったらその分しっぺ返しが来ます。
トライアスロンの3種目──水泳・自転車・ランニングは、日本人ならほとんどの人が一度は経験しているものばかりですよね。特別なスキルはいりません。しかし、続けて3種目行うことや、距離があるということで「ハードルが高そう」と思われることもあります。
でも、練習していけば走れる距離は必ず伸びるんです。走るスピードは年齢で限界がありますが、距離は年を取っても伸ばすことができます。つまり、誰でもトライアスロンはできるんです。
トライアスロンの面白さは、誰かと競うのではなく“自分との戦い”であるところ。自分が決めたことをやれるか、自分に負けないか。それだけなんです。
トライアスロンが初めてで、何から始めたらよいか分からない人に向けて、私は目標を決めることをおすすめしています。たとえば「3か月後に大会に出る」と決めると、そこから「水着を買おうかな」「プールに行ってみようかな」と現実的な行動が始まりますよね。
そうやって、自分が一歩踏み出すことで、今まで見えなかった情報や出会いがどんどん見えてくるのがトライアスロンに挑戦する魅力だと思います。
トライアスロンを通じて学べる一番大きなことは、先ほども言ったように「やったらできるし、やらなきゃできない」という当たり前の事実です。
しかし、できなかったことができるようになることは、非常に大きな喜びであり、お金では買えない、自分が努力したからこそ得られる“自信”なんですよね。
スポーツの楽しさには「fun(ファン)」と「joy(ジョイ)」がありますが、トライアスロンは間違いなく「joy」つまり、内側から湧いてくるような深い喜びを味わうスポーツです。
実際に、トライアスロンをやっているのは、30代後半から50代くらいの方が多いと思います。人生の色々な場面を経て、自分のなかで「joy」を味わえるようになった年齢層の方に、トライアスロンは特にマッチするのだと思います。

中学・高校・大学時代はクロスカントリースキーの選手として活躍後、1990年よりプロのトライアスリートとして活躍。世界選手権日本代表を6年連続経験するなど世界で実績を積み、ワールドカップシリーズや、世界最大規模の長距離トライアスロンである「アイアンマン・レース」シリーズで世界を転戦。その後、スポーツの案内人として様々な角度から魅力を伝えるために、スポーツナビゲーターとしても広く活動。2008年には株式会社ATHLONIA(アスロニア)を設立し、トライアスロンの普及に力を注いでいる。これまで通算600レース以上、アイアンマン世界選手権には23回出場している。
